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アクリフーズと落合博満の「やりがい搾取」テク

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マルハニチロ子会社「アクリフーズ」の冷凍食品に農薬が混入した事件。
ついに容疑者が逮捕され、コスプレバイクマニアの契約社員のおっちゃんだったという犯人像も相まって大いに話題になっていますね。

まあ、この容疑者もきっと変わった人だったんでしょうが、今回の事件について一言で言えば、

「給料を下げたら、モラルも下がった」

ということだと思うんですよ。
アクリフーズ側の賃金カットの方法がド下手だったと。

一方、賃下げと言えば昨年末、中日・落合GM「オレ流契約更改」で総額8億円超えの減俸という、球史に残る大減俸を達成したことで話題になりました。
しかも、全員一発サイン。減俸なのに反乱どころか何故か晴れやかな選手が多いくらいの会心の契約更改でした。

落合GMお見事!8億円削減 | 東スポWeb – 東京スポーツ新聞社

かたや農薬混入、かたや一発サイン。この差はどこで生まれたのか。
それは「やりがい搾取」の手口がどちらが巧妙だったかという一点に尽きると思うわけです。

オレ流賃下げテクニック「心を掴んで下げまくる!」

落合さんの賃下げテクは完全にプロの手口ですよ。

①交渉の開始時期を早めて横を見させない

中日は他球団より一ヶ月近く早く契約交渉を開始しました。その方が選手もチームも負担が少なくてよいという表向きの理由は言っておりましたが、これには別の意図があったのではないかと思うんですね。

それは他球団の交渉を見せないこと。

いち早く交渉を開始することで他球団の交渉状況を見られないようにし、「同じ成績のアイツはコレだけもらってますよ!」などの反発を封じ込めようとしたのではないかと。現に、同じ4位の球団でもソフトバンクでは一億アップが4人も出たということで、同時期の契約更改開始の場合、落合GMが交渉時に頻繁に用いた「うちは何位の球団だと思ってる?」という必殺が使えなくなっていた可能性があります。
中日8億円削減 ソフトBは1億円以上4人 同じ4位でこうも違う ― スポニチ Sponichi Annex 野球

②交渉時には「持ち上げるだけ持ち上げてから落とす」

金額を提示する前にその選手への期待を口にします。「お前が必要」「お前はもっとやれる」「チームの柱になってもらいたい」「首位打者を取ろう」などなど。
浅尾5500万円減「必要な選手といってもらったり、嬉しい言葉もたくさんいただいた」

これによって、選手の「やりがい」をガンガンにくすぐります。人から必要だと言われて嫌な気がする人はいませんからね。これによって金額交渉してやろうと思っていた選手は出鼻をくじかれますし、反論をするのが気が引ける状況を作り出します。イージーな選手ならほぼここで勝負は着いているといっていいでしょう。

毎年交渉に難儀する球団は、大体ここが下手くそです。球団が「雇ってやってる」「こっちがクビにすれば貴様らは無職」「たかが選手が(ナベツネ動画)」など球団は選手に対して強くいなければならないという姿勢で交渉すると、前向きな言葉や労いなど一切無く、ただ単に数字を提示するだけだったり、活躍よりもミスを責めるようになります。すると選手も「こんな球団にビタ一文負けてなるものか」という気持ちになりますね。そうなればもう泥沼です。いつも西武がこの状況に陥りがちですね。
涌井の年俸調停で考えさせられた、「スポーツと言葉」の微妙な関係。(1/3) - Number Web : ナンバー
片岡易之「盗塁と本塁打は同じ価値」 - Wikipedia

結局、相手は人間なのですから、心に訴えるというのが非常に重要なんです。
その上での、大減俸の提示です。

③遠まわしに「お前らのせい」を意識させる

このままスっといけばそのままですが、納得しなそうなら球団の現状を話します

昨年の成績が振るわず、広告も伸び悩んでいる。早々に優勝戦線から脱落して球場の入りも良くない。親会社の新聞も売上げが悪い。それはドラゴンズの不調でスポーツ誌の売上げが下がったことが遠因だ。などなど。これで、無い袖は振れないと言うことを意識付けし、さらに遠まわしに選手の責任にも言及します。すべては「それでも、これだけ提示するんだよ」という説得力のためです。
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④巧妙な交渉順序とメディア戦略

さらに、減俸額の大きい選手から交渉を始めるという手口。
しかも、前年の成績が思わしくなく、下げられることを覚悟している選手を先に交渉します。これも鬼。

野球選手の年俸でモメるときっていうのは、下げるときより上げるときのほうがモメるものです。選手も「俺は今年は頑張ったんだ!」という思いで向かってきますからね。そういう選手を先に持ってくると提示額への期待値が高すぎてしまう。

そこで落合GMはそういう選手に対して、事前に大減俸の連発を見せ付けておき、厳冬のオフを意識させるという強烈な牽制球をお見舞いしました。
交渉術の基本として、「最初に思い切った金額を提示する」という手法がありますが、一対一の交渉の場ではなく、他の選手との厳しい交渉を見せ付けることで低い金額を提示したのと同じ効果を生み、初回提示額を飲ませるという、云わば悪魔の所業です。
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「人日・人月」を埋めるという発想がダメ

その点、アクリフーズは契約社員のことを「人日、人月」をうめるための代えの利く部品程度にしか考えてなかったのかもしれませんね。

働くっていうことは、労働力と賃金の等価交換なわけです。
労働力っていうのは、時間、職能、早さ、クオリティ、など様々な要素があって、そこには当然、職場モラルも入ってくる。等価交換の一方である賃金が下がれば、もう一方の労働力側で何かが損なわれる可能性があるというのは当然分かっているはずなので、制度変更の時には一見さも賃上げのように見せかけて「能力給だよ!」「頑張ったら給料が上がるよ!」と喧伝する訳ですね。そして、優秀な数人をモデルケースとして賃上げしておいて、他の人の賃金を下げ、グロスの金額を下げに行くわけです。

で、今回はそれがあまりにもお粗末だったもんで、反乱分子を抱える羽目になったと。

まあ、アクリフーズも中日もそれなりにブラックなのかもしれませんが、「言葉でやりがいをくすぐって安月給で働かせる」というやり口を見るに、中日ドラゴンズの方がより手練なブラックっぽいですね。

采配

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