バニシングIN TURBOを見ずにロン・ハワード「ラッシュ/プライドと友情」は語れない
ロン・ハワードの新作映画、「ラッシュ/プライドと友情」は、F1の黄金時代である70年代、走るコンピューター:ニキ・ラウダと壊し屋プレイボーイ:ジェームズ・ハントという対照的な人物の美しいライバル関係を描く、実話を元にした映画になっているそうです。
「バックドラフト」や「アポロ13」に代表されるような、アクションとヒューマンドラマを組み合わせる作風を得意とするロン・ハワードにとっては、これ以上無い題材といえるでしょうね。もう、監督と題材だけで名作確定みたいなものです。
しかし、ロン・ハワードのクルマ映画といえば、衝撃のデビュー作「バニシングIN TURBO」(原題:Grand Theft Auto)を語らずにおられるかと思うわけですよ!
今作のF1カーが大爆発を起こすCMを見まして、私はロン・ハワードが「バニシングIN TURBO」に返ってきたのかな?と思ったのです。
「バニシングIN TURBO」(原題:Grand Theft Auto)とは
この「バニシングIN TURBO」、主演はなんと、ロン・ハワード本人です。
なぜならこの人、元々主にホームコメディで活躍していた子役上がりなんですよ。両親も俳優、兄弟も俳優という俳優一家に生まれ育っているんです。ちなみに、本作には父と兄もヒッピー役で出演しています。
そんなロン・ハワードの監督デビュー作となったのが「バニシングIN TURBO」です。子役時代から監督に憧れを持っていたロンが父とともにプロットを書き上げ映画会社に持ち込みます。
これが、幸運にも「B級映画の帝王」といわれる超大物ロジャー・コーマンの目に止まったんですね。ロジャー・コーマンといえば、超低予算かつ短期間の撮影で、確実に投資分を回収する生粋の映画屋。代表作『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』はたった2日で撮られたという逸話の持ち主です。
ですので、本作ももちろん超低予算。わずか60万2千ドルしか使わずに撮った映画となります。
Grand Theft Auto (1977) - YouTube
何故かYoutubeに全編動画が上がっていたのですが、一応あらすじはこう。
ロサンゼルスのビバリー・ヒルズ。政界を目指す野心家の父によって金持ちの息子と結婚させられそうになった娘が、父親のロールス・ロイスを盗み出し逃走!恋人と共にラスベガスへ向けて走り出す!それを追う父と婚約者。そして、父に雇われたギャング。懸賞金に目がくらみ猛スピードで追いかけてくる一般人。面白がってヘリで追跡し実況するラジオ局。果たして彼らは愛の逃避行を逃げ切ることができるのか!?恋愛とハチャメチャなカー・アクションが繰り広げられる娯楽映画。
要するにポップコーンムービーです。
上映開始五分で開始するカーチェイス。その後は終始どこかで爆発・横転・スピン・衝突が繰り広げられるドカンドカンの展開です。
そんな中でも繰り広げられるカップルのイチャつきや痴話げんか。最初の方なんかずっとチュッチュッしてます。そして、何しろ彼女役のナンシー・モーガンがかわいいので、これはもうロン・ハワードがナンシー・モーガンとイチャつきたかっただけちゃうんかと。
最後なんか、追いかけてきた全車両が何故かクラッシュレースの会場に紛れ込み、もうただクルマをぶつけて爆発させたかっただけとしか思えないような物凄いカー・アクションが繰り広げられます。
もうホント最後まで楽しい。
ただただ「バカだなあw」という感覚で見ていられる映画です。
バニシングIN TURBOで見せた才能の片鱗
こんな一見めちゃくちゃな映画でもロン・ハワードはその才能の片鱗を見せてくれます。
まず、ロジャー・コーマンのプロデュース作にしてはスプラッタシーンが無い。これはロンのこだわりだったんでしょう。楽しい映画に血はいらないというね。
そして、めちゃくちゃな展開ではありながらもハッピーエンドをしっかり演出。悪いやつにはキチンと痛い目を見せて視聴者をスッキリさせてくれます。そして、アクションだけじゃなく、ストーリーもしっかり完結させてくるところ当たりがロン・ハワードの非凡なところなのでしょう。
本作、わずか60万2千ドルの予算に対して、結局1500万ドルを稼ぐ大ヒットとなったそうで、その後のTV放映権の販売においてもCBSが110万ドルで購入したとかで、これだけでも元が取れちゃうレベルの大当たりだったそう。この商業的な大成功が、後の名作の数々と「ラッシュ/プライドと友情」を生んだといえるでしょう。
この作品で見せた、アクションとヒューマンドラマの融合。そして、それを無難に着地させるストーリーテリング能力は確実に「ラッシュ/プライドと友情」に繋がっていると思われます。
「ラッシュ/プライドと友情」の前に「バニシングIN TURBO」を見ておけば、より深く映画を楽しめること間違い無しです。